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山口地方裁判所 昭和58年(行ウ)5号 判決

山口県下関市大字清末二一三二番地

原告

徳本直助

同市山の口一番一八号

被告

下関税務署長

下江正敏

右指定代理人

八木良一

山本武男

國松新成

岩谷利彦

岡山昭陽

井藤治幸

村中豊

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告が昭和五六年一〇月九日付で原告の昭和五五年分所得税についてした加算税賦課決定のうち重加算税にかかる部分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二請求原因

一  原告の昭和五五年分の所得税について、原告が確定申告、修正申告をなし、これに対して被告が重加算税及び過少申告加算税の賦課決定をなし、右決定のうち重加算税にかかる部分(以下本件重加算税賦課決定という)に対し、原告がなした異議申立、審査請求につき棄却決定、棄却の裁決がそれぞれなされた経緯は別表一(課税経緯表)のとおりである。

二  而して、本件重加算税賦課決定は、所得税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装し、その隠ぺい又は仮装したところに基づき納税申告書を提出した事実がないのになされた点において違法である。

よつて原告は本件重加算税賦課決定の取消を求める。

第三請求原因に対する認否及び被告の主張

一  請求原因に対する認否

請求原因一の事実は認め、同二は争う。

二  被告の主張

1  原告は昭和五五年中に、別表三の(一)記載のとおり、山口県下関下大字清末字外松田二一五六番の七ないし一一及び同番の一四土地(以下本件各土地という)合計一三七八・五平方メートルを柿本富路ほか五人に譲渡し、合計五〇六六万円の譲渡収入を得、その取得費として同表(二)記載のとおり九三〇万六九〇円を要した。

2  ところが原告は別表二記載のとおり、譲渡収入金額につき三二九六万円と過少に、取得費につき一二六二万円と過大に計上したところに基づき確定申告書を提出した。

3  そこで被告は原告に対し、右の取得費の過大計上分三三一万九三一〇円については、過少申告加算税を賦課することとしたほか、譲渡収入金額の内金一七七〇万円につき計上除外した点は、原告の昭和五五年度所得税の課税標準又は税額の計算の基礎となるべき事実の隠ぺい又は仮装に該当し、原告においてその隠ぺいし又は仮装したところに基づき確定申告書を提出したのであるから、国税通則法(昭和五六年法律第八号により改正される以前のもの、以下通則法という。)六八条一項に従い、右計上除外分に対応する所得税額三五四万円に一〇〇分の三〇の割合を乗じた一〇六万二〇〇〇円を重加算税として賦課する旨の本件重加算税賦課決定をなしたものである。

4  原告が譲渡収入金額について、その計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装し、その隠ぺいし又は仮装したところに基づき確定申告をしたものであることは次の事実から明らかである。

(一) 原告は、本件各土地の売却にあたり、別表三の(一)の2ないし5記載の売買において、正規の売買契約書のほか、税務対策用として坪当り二万円(同表記載3の売買については三万円)譲渡価額を圧縮した契約書を作るなどしておきながら、確定申告に先立つて、昭和五六年三月七日に被告税務署に納税相談に赴いた際相談担当者に対し、売買契約書等は作成していないと偽つてこれを提示せず持参したメモによつて説明し、売却総面積が四一二坪、宅地造成後の本件各土地の譲渡価格が坪当り八万円であること、譲渡経費として、造成費が一二〇〇万円、設計料が六二万円合計一二六二万円を要したと虚偽の答弁をなし、原告主張の開発費相当額に見合う譲渡収入金額についてはそれ自体が存在することすらも述べず、同月九日、右申立どおりの内容で確定申告をした。

(二) その後、被告の調査担当者による原告方臨宅調査の際にも、原告は本件各土地の譲渡につき売買契約書は作つていないと偽つてこれを提示せず、また造成費についても領収書や請求書を二、三枚提示したのみであり、収入は坪八万円で造成費が坪三万円かかつているから申告した数字で間違いないと主張した。

さらに、調査により原告の過少申告の事実がほぼ解明された時点で修正申告の慫慂がされたが、原告はこれに応じず却つて、同年六月二二日付で意見書を被告に提出し、昭和五五年分の譲渡収入金額は坪八万円で計三二〇〇万円であり、間接直接経費として一二〇〇万円、税法上の控除一〇〇万円及び支払利息一五〇万円を差引くと譲渡所得金額は一八五〇万円となる旨虚偽の申立をなした。

(三) 原告は同年七月一〇日に至つて、被告の照会に対する「お尋ね回答書」をもつて本件各土地の売却坪数及び坪当り単価並びに売却代金総額を回答したが、その中で譲渡単価は坪当り一〇万円(ただし、別表三の(一)の2記載の売買については坪八万円)と訂正したものの、右合計四〇四〇万円のうち三二九〇万円の申告額分を除く部分は経費である旨の、新たな主張をした。

さらに原告は同年八月二四日付の「証明書」を被告に提出し、本件各土地の坪当りの譲渡金額は、土地代として一〇万円、開発費相当額として、二万円(ただし別表三の(一)の6の土地については三万円)である旨再度申立てを変更した。

第四被告の主張に対する認否及び原告の反論

一  被告の主張に対する認否

被告の主張1、2の事実は認め、同3の事実中、原告が税額等の基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装したとの点は否認しその余の事実は認める。

二  原告の反論

原告は、本件各土地の売却に際し、田としての有姿の土地代金と、これを埋め立てて宅地化するための開発費を分離、区別しており、確定申告に当つて譲渡収入金額に計上しなかつた計上除外分は、右の開発費相当部分であつて、原告は、課税の対象となる譲渡所得中には右開発費は含まれないと考えていたことから、確定申告及び被告による調査の際、右計上除外分の申告をなさなかつたものである。また「お尋ね回答書」、「証明書」は被告の慫慂に応じて作成したものであつて原告の本意ではない。従つて原告には右計上除外分についての事実を隠ぺいし又は仮装する意図は全くなかつたものである。

第五原告の反論に対する認否

否認する。

第六証拠

一  原告

1  証人長岡守男、原告本人

2  乙第二号証の成立は不知、乙第一号証の一、二、第三号証、第四号証、第五号証の一、二、第六号証の一ないし三、第七号証、第一九ないし第二二号証の各一、第二二号証の六、第二三ないし第二六号証の各一、第二七、第二八号証の成立は認め、その余の乙号各証は原本の存在並びに成立につきいずれも認める。

二  被告

1  乙第一号証の一、二、第二ないし第四号証、第五号証の一、二、第六号証の一ないし三、第七、第八号証、第九号証の一、二、第一〇、第一一号証、第一二号証の一、二、第一三ないし第一六号証、第一七号証の一ないし四、第一八号証の一、二、第一九号証の一ないし三、第二〇号証の一ないし六、第二一号証の一、二、第二二号証の一ないし七、第二三号証の一ないし三、第二四号証の一ないし七、第二五号証の一、二、第二六号証の一ないし三、第二七、第二八号証

2  証人森山重雄、同山本猛

理由

一  請求原因一の事実並びに被告の主張1、2の事実と、本件重加算税賦課決定が原告のなした確定申告の譲渡所得収入計上除外分金一七七〇万円につき通則法六八条一項に則りなされたものであることは当事者間に争いがない。

二  そこで、原告が、右の譲渡収入金額について、その計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装し、その隠ぺいし又は仮装したところに基づき確定申告をしたか否かにつき検討する。

いずれも成立に争いのない(写しについては原本の存在についても争いのない)乙第三号証、第五号証の一、二、第六号証の一ないし三、第七号証、第一九号証の一ないし三、第二〇号証の一ないし六、第二一号証の一、二、第二二号証の一ないし五、第二三号証の一ないし三、第二四号証の一ないし七、第二五号証の一、二、第二六号証の一ないし三、証人森山重雄、同山本猛、同長岡守男の各証言並びに弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。

1  原告は昭和五五年中に本件各土地を宅地用に造成したうえ、別表三の(一)記載のとおり売却したが、同表記載2ないし5の各売買においては、各買受人との間で、正規の売買契約書代金領収証のほか、原告のための税務対策用に現実に収受した譲渡収入額を坪当り二万円(同表記載3の売買においては三万円)下回る売買代金を記載した売買契約書を作成し、また同表記載1の売買においては、正規の売買契約書と代金領収証のみを作成したものの、仲介者を介して、「道路や擁壁の工事費がかさんだから、税務署に対しては坪一〇万円で買つたと説明してくれ」と買受人に頼み、同表記載6の売買においては買受人に対し、代金領収証を交付し、移転登記手続は了したが、売買契約書については後日交付すると言つたまま買受人に交付しなかつた。

2  右の各売買にあたり、売買契約書、領収証に開発費用を土地代金と分離区別した記載はなく、買受人にその認識はないのみならず、原告の方からその旨述べた形跡はない。

3  原告は確定申告に先立ち昭和五六年三月七日被告税務署に納税相談に赴いたが、その際には、前示契約書等を相談担当者に提示せず、持参したメモによつて、本件各土地の売却総面積四一二坪、宅地造成後の譲渡価格坪当り八万円、譲渡経費として造成費一二〇〇万円、設計料六二万円、合計一二六二万円を要したとのみ説明し、右のとおり造成費については経費として計上しながら、原告主張の開発費相当額に見合う譲渡収入金額についてはそれ自体が存在することすらも述べなかつた。そして原告は、その二日後、右の説明どおりの内容で確定申告書を提出した。

4  原告はその後、本件各土地の造成費用の資金の借入利息を必要経費に算入していなかつたとして、更正の請求をし、被告において右請求の処理と合わせて本件各土地の譲渡収入金額等についての調査を開始し、昭和五六年四月下旬被告の調査担当者が原告方に赴いたが、その際にも原告は、本件各土地の譲渡につき売買契約書等は作成していないと述べて提示せず、造成費についても領収証、請求書を二、三枚提示したのみで、申告した数字に間違いないと主張した。

5  その後被告において本件各土地の買受人や原告の取引銀行の調査をして、譲渡収入金額、造成費の実額がほゞ解明されたため、原告に対し、修正申告をするよう慫慂したが、原告は申告した収入金額、費用に間違いないと言つてこれに応じず、同年六月二二日付で、本件各土地の譲渡収入金額は坪八万円で計三二〇〇万円、間接直接経費として一二〇〇万円、税法上の控除一〇〇万円、支払利息一五〇万円だから譲渡所得金額は一八五〇万円となる旨の意見書を被告に提出した。

6  そして、本件各土地の譲渡内容につき具体的に述べるよう被告からあらためて照会がなされたことから、原告は、これに対する「お尋ね回答書」により、譲渡単価は坪当り一〇万円(ただし別表三の(一)の2記載の売買については坪八万円)であると訂正したが、譲渡価額合計四〇四〇万円のうち、申告額三二九〇万円を除く部分は経費である旨、始めて経費相当分の存在に基づく弁明をするに至つた。

7  さらに原告は、同年八月二四日付の証明書を被告に提出し、その中で、本件各土地にかかる譲渡収入金額が別表三の(一)記載のとおりであるとの事実を認めたうえ、そのうち坪当り二万円分(同表6の売買については三万円)は開発費相当額である旨再度主張を変更した。

以上の事実が認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果は前掲各証拠に比照して措信し難く、他に右認定に反する証拠はない。

そして、右認定の事実に徴すると、原告は昭和五五年分所得税の課税標準又は税額の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし又は仮装し、右隠ぺいし又は仮装したところに基づき、本件各土地の譲渡収入金額の内金一七七〇万円につき計上除外して確定申告書を提出したものと認めるほかなく、右計上除外分は開発経費として分離区別して考え、課税対象にならないものと考えたためにこれを計上除外したとの原告の弁明主張は到底首肯し得ないところである。

三  そうすると、本件重加算税賦課決定には原告主張の違法は存しないから、原告の本訴請求は理由がないものとしてこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民訴法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大西浅雄 裁判官 金馬健二 裁判官 三木昌之)

別表一 課税経緯表

〈省略〉

別表二

譲渡所得金額計算表

〈省略〉

備考

〈2〉欄の△は減少をあらわす。

〈4〉欄は、租税特別措置法(昭和57年法律8号による改正前のもの。)31条2項による金額である。

別表三

(一) 譲渡収入金額の内訳

〈省略〉

(二) 取得費の内訳

〈省略〉

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